不用意な言葉が組織を揺るがす
むかし、ある村のお百姓さんが田んぼを見回っていると、蛇が小さな蛙を追いかけていました。お百姓さんは「おい蛇よ、そんなに蛙を追うな!おれの一人娘をお前にやるから!」と言ったところ、蛇はおとなしく帰って行きました。
するとその晩から、若い男が娘の所へ夜遅くきて、朝早く帰るようになりました。お百姓さんは心の中で思いました。「困ったことになってしまった。」
ところがある日、家の前を見たことのない易者が歩いたので、娘のことを占ってもらったところ、易者は「この娘は人間でない者の子を持っているので、近いうちに死ぬだろう。助かるためには、裏山の大木の上に鷲の巣があり、そこに卵が三つある。あれを若い男に頼んで取って来てもらい、食べさせたらよかろう!」といいました。
そこで、その晩に来た若い男に卵が食べたいと話をしますと、こころよく承知してくれ、すぐに裏山へ取りに向かってくれました。
大木の前に来ると、若い男の姿だんだん蛇のすがたに変わり、木に登り始めました。木の上の巣までたどり着き、卵をくわえた時に、鷲の親が見つけて、蛇をつつき殺してしまいました。その晩から若い男は、娘の所へ来なくなったということです。
翌日、あの易者が家の前に来たので、呼び止めて、この話をすると「それでは、もう娘さんは助かった!」と言うと・・・、
蛙の姿にかわり「私はあなたに命を助けられた蛙です」と言って帰って行きました。
お百姓が蛇に「娘をやる」と軽率に約束したことで一時は災いを招きましたが、もともと蛙を助けようとした心が最終的に善い結果をもたらしました。
「善意は巡り巡って自分や家族を救う」という寓話的な構造です。また、娘を差し出すという不用意な言葉が現実化し、家族を危険にさらしました。「口にした約束や言葉には責任が伴う」という警告でもあります。
この昔話では、善意がめぐり最終的に良い結果になりましたが、現実社会では、簡単な話にはなりません。リーダーの不用意な言葉や場当たり的な決定は、組織文化と人間関係の両方に深刻な影響を及ぼします。
まず組織文化の面では、トップの一言が暗黙のルールとして受け止められやすく、たとえ軽い発言であっても組織の価値観や行動規範を方向づけてしまいます。その結果、心理的安全性が損なわれ、メンバーが意見や失敗を共有しなくなるなど、健全な文化が崩れる危険があります。また、一貫性を欠いた決定は「何を信じればよいのか分からない」という不安を生み、組織文化の基盤を弱めます。
一方、人間関係の面では、リーダーの不用意な言葉は約束の軽視として受け取られ、信頼を損なう要因となります。信頼が失われれば協力や自主的な行動は減り、組織の結束が弱まります。さらに、強い立場からの軽率な発言は弱者にとって圧力や脅威となり、健全な対話を阻害します。不公平に見える決定は派閥や不満を生み、メンバー間の分断を招くことにもつながります。
したがって、リーダーは言葉と決定の重みを常に意識し、誠実さと一貫性をもって組織を導く必要があります。慎重で責任ある言葉は、組織文化を安定させ、人間関係に信頼を育み、結果として組織全体の持続的な力を高めるのです。
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