声なき沈黙の構造
ストーリー
弁論家デマデスがある時、アテネで演説をしていたが、聴衆が少しも身を入れて聞かないので「イソップ寓話を語らせてほしい」と頼んだ。
同意が得られたので語り始めた。「デメテル女神と燕と鰻が道連れになった。川のほとりにさしかかった時、燕は空へ飛び、鰻は水に潜った。」デマデスはこれだけ言って黙った。
すると聴衆が、「デメテル女神はどうなったんだ?」と尋ねるので、デマデスが言った「お前たちに腹をたてていなさるのだ。国の問題を聞かず、イソップ寓話を聞きたがっているのだから。」
※デマデス:古代ギリシャ、アテナイの政治家。貧しい一家に生まれ、一時は船員として働いていたが、巧みな弁舌と狡猾な性格によって、アテナイで高い地位に昇った。
※デメテル女神:農業の女神
多くの人は、難しいことよりも簡単なことに流れがちだ。だが、それが必ずしも賢明な選択とは限らない。
デマデスの時代(紀元前4世紀後半)は、アテネがマケドニアの脅威にさらされていた時期。市民の政治参加は制度上保証されていたものの、戦争や内政の混乱、そして政治への失望感から、実際には関心が薄れ、演説や議論への集中力が低下していたと記録されている。戦争や内政の混乱が続く中、民衆は複雑な政治議論よりも、寓話や娯楽的な話に関心を示す傾向が強まっていた。
このような時代背景のもとに語られた寓話で、逆説的に批判を加えたことを教訓としている。
これを身近な社内の話に置き換えたらどうだろう。会議では、本質的な改革案よりも、表面的なスローガンやイベントにばかり注目が集まるといったことはないだろうか。会議で意見が出ないのは、何度も提案や意見をだすものの、実質的に変わらなかったり、「声を上げても損するだけ」という学習をしてしまったり、ということは無いだろうか。
このような同調圧力が蔓延している組織では、発言しないことが正解であり、無関心が「安全な態度」として共有される。
このような無関心体質を変えるためには、組織全体が問題意識を共有し変化への意思を持つことが不可欠だ。小さな成功体験や、声が届く場の設計から始めれば空気は少しずつ変わるかもしれない。
しかし、変わることが出来なければ、長期的には信頼・創造性・持続性を失い、衰退や崩壊のリスクが高まるだろう。
あなたの職場はどのような空気感ですか?






