誤解から始まる革新
黒鯛大明神
むかし一人の魚商人が、魚を売りに山奥へ入って行きました。
寂しい山道を歩いていると、脇の林の中で山鳥が一羽、罠にかかっていました。
魚売りは、これを見て、欲しいと思い、山鳥の代わりに自分の籠から黒鯛を三尾取り出して、罠に挟んでおきました。
その後、村の人が罠にかかった黒鯛を見て大変驚き、天の神の御示しであろうと、小さな社を建てて黒鯛を祀りました。
その評判が伝わりますと、あちらこちらから、お参りに来るものがあって、村は栄えたということです。
魚商人のささやかな交換行為が、村の信仰と経済に影響を与えました。これは、日常の些細な選択が、予期せぬ波及効果を持つ可能性を示唆しています。
魚商人の行動は、制度の想定外にある逸脱でした。しかしその逸脱が、やがて信仰と経済を支える制度へと昇華されたのです。
世の中には、偶然から生まれた有名な商品が数多く存在します。失敗や予期せぬ出来事が、革新的な商品や文化を生み出した例は枚挙にいとまがありません。たとえば、ポテトチップスは、怒りに任せて薄く切った芋が、世界のスナック文化を変えた例です。
これらはまさに「制度の外から生まれた構造」や「誤解が価値を生む」現象の実例とも言えるでしょう。そしてその背後には、名もなき魚商人のような、制度の外にいる者の行動があるのです。




