投稿者: gray wolf

  • おいしいおかゆ(グリム童話)

    少女がお婆さんにもらった鍋をお母さんが使ったら大変なことになった話

    ストーリー

     むかし昔ある所に、貧乏な少女がお母さんと二人で暮らしていました。食べるものが何もないので森へ野イチゴを採りに行きました。
     森へ行くと見知らぬおばあさんと出会いました。おばあさんは少女が困っていることを知っていて、鍋を一つあげました。このお鍋は「おなべや、ぐつぐつ!」というと、おかゆをぐつぐつこしらえます。それから「おなべや、おしまい!」というと、おかゆをこしらえるのをやめるのです。

     少女はこのお鍋を持ち帰り、いつでもおかゆを作ってお母さんおかゆを食べることが出来るようになりました。

     ある日、少女の留守にお母さんが「おなべや、ぐつぐつ!」と言うと、お鍋はおかゆをこしらえ始めました。お母さんはお腹いっぱいになったのですが、お鍋はおかゆを作り続けています。作るのをやめてもらおうと思いましたが、なんと言ったらよいかわかりません。
     おかゆがお鍋のふちからあふれて、そのうち家じゅうがおかゆでいっぱいになりました。

     その時、少女が戻ってきて、たった一言「お鍋や、おしまい!」と言ったら、お鍋はぐつぐついわなくなりました。

    教訓
    知らないことには手を出さないほうが良い。

    おいしいおかゆ(グリム童話)
  • みそさざいと熊(グリム童話)

    小さな鳥のミソサザイが熊とけんかをして勝つ話

    ストーリー

     熊と狼が森を散歩していたところ、鳥のさえずりが聞こえた。熊は狼に「どんな鳥の鳴き声だろう?」尋ねた。
     狼は「あれは鳥の王様だよ!ご挨拶をしなくてはいけないんだ」と答えた。熊は「王様の御殿を見てみたい」というと、狼は「王様とおきさき様が、いなくなったら見に行こう」と言い、その場を通り過ぎました。

     しばらくして熊と狼が鳥の王様とおきさき様がいない時に、御殿を見に行きました。巣をのぞくと、みそさざいの雛が五、六羽いました。熊が「これが王様の御殿なのか」とバカにすると、みそさざいの雛たちは「馬鹿にするな、おぼえてろ!」わめきました。
     
     しばらくすると、みそさざいのお父さんとお母さんが帰ってきました。雛たちは熊に馬鹿にされたことを話すと、お父さんは「安心しておいで」と言うと、熊のほら穴に飛んで行き、熊に向かって「うちの子供たちをバカにしたな!ひどい目にあわせてやる、とけんかをしかけました。

     熊はけんかに備え狐を呼び出し「お前は知恵のあるやつだ。けんかに勝てるよう指図しろ」と言いつけたのです。狐は「私のしっぽが立っていれば、どんどん進んで下さい。しっぽを下ろしたら逃げ出すのですよ」と言いました。これを聞いていたみそさざいの仲間が、飛びかえってきて秘密をみそさざいに話しました。

     いよいよけんかが始まろうという日になると、みそさざいは蜂に「狐のしっぽの付け根を力まかせに刺してくれ」とお願いしたのです。しっぽの付け根を刺された狐はがまんしきれず、しっぽを股の間に挟みました。これを見た熊は勘違いしてほら穴へ逃げかえりました。

     その後、熊はみそさざいの雛たちにお詫びをしたそうです。

    教訓
    情報を収集し上手に活用すると、大きな成果につながる。

    みそさざいと熊(グリム童話)
  • 熊の皮を着た男(グリム童話)

    戦争が終わりお払い箱になった兵隊が悪魔と取引をして生涯かね持ちになった話。

    ストーリー

     むかし昔、ある若造が兵隊で勇ましい働きをしました。小銃の玉が嵐のように飛んでくる中でも、いつでも先頭に立って進んだものです。戦争がある間は何でも順調でした。ところが戦争が終わると、兵隊は不要になり、お払い箱になりました。
     
     隊長から解雇を言い渡され、郷里へ戻ったものの両親はすでに亡くなり、兄弟たちは疎遠で「今更、お前の面倒を見ることは出来ない」と冷たく断られ一人で生きるしかありません。

     兵隊はさまよい歩き、ある荒野にさしかかりました。一本生えている木の下にしょんぼり座り込んで、自分の身の上をつくづく考えてみました。
     「銭は一文無し。覚えたのは戦争の小手仕事ばかり。だから平和になれば、自分には用がないわけだ。餓死することは見え透いているさ・・・。」

     その時、にわかにざわざわ音が聞こえ、辺りを見回すと、見たことのない男が目の前に突っ立っていました。
     「お前が困っていることは、ちゃんとわかっているぞ。だからお金をあげよう。だが、私も金を無駄にしたくないから、お金をあげる前にお前を試してみ見たいんだ。」
     兵隊は不思議に感じましたが「おれを試してみるが良かろう」と返事をしました。

     すると男が「お前の後ろを見てみろ」というので、兵隊は振り向きました。そこには大きな熊が兵隊めがけて跳びかかってくるところでした。
     兵隊は「鼻ずらに鉄砲を打ち込んで、うなれないようにしてやる!」というが早いか、狙いをつけて、熊の鼻づらに一発打ち込みました。熊は丸くなってひっくり返ったまま、ピクリとも動かなくなりました。
     男は「勇気はないこともないな。だが、もう一つある。これもやってもらわなくてはならぬ」といいました。 
     兵隊はこの男の正体が悪魔だとわかり答えました「おれが死んでから天国へ行くのを邪魔しないなら承知するが、邪魔するようなことならお断りだ!」

     悪魔は言いました「それは、お前の心がけ一つだ。お前はこれから7年の間、体を洗ってはいけない、ひげや髪の毛にくしを通してはいけない、爪を切ってはいけない、祈りを唱えてはいけない。お前に上着と外套をやるが、ずっと着ていなくはいけない。この7年のうちに、お前が死んだら、お前は私のものだ。もし生き延びたら自由になったうえ、金持ちでいられるだろう。」
     兵隊は、今の自分が生活に困ってどうにもならないこと、これまで何度も死ぬような目にあっていることを思いだし、覚悟を決めて悪魔の言うことを承知しました。
     
     悪魔は自分の上着を兵隊に渡して「この上着を着てポケットへ手を入れれば、いつでもお金がひとつかみづつ取れる」と言い、また熊の皮を剥ぎ取って
     「これをお前の外套にしろ。それから寝床もこれだ。他の寝床へもぐりこんではならぬ。お前はこの身なりにちなんで『熊の皮を着た男』という名をつけろ」というと、悪魔の姿は見えなくなりました。

     兵隊はその上着を着てポケットに手を入れてみると、なるほど、悪魔の言ったとおりでした。熊の皮を羽織って町に出て、自分の気が向けば、お金に糸目をつけず、どんなことでもやりました。一年目は人並みでしたが、二年目には髪の毛が顔中に覆いかぶさり、ひげは毛布の切れはし見たいなようでした。指には鉤のような爪が生え、顔には垢や汚いものが積もり、この人を見ると誰もが逃げ出しました。

     四年目に、どこかの旅籠へ行ったことがあります。宿の亭主はどうしても泊めたくないと言うので、ポケットから金貨をひとつかみ渡したところ、裏手の部屋をひとつ貸してくれました。ただし店の評判が悪くなると困るので、決して姿を見せないように熊の皮を着た男に約束させたのです。

     熊の皮を着た男が、日が暮れてから、たった一人ぽつんとして「どうか七年という歳月がたってしまいますように」と心底お願いしていた時、隣の部屋でなにやら嘆き悲しむ大きな声が聞こえました。戸を開けてみるとお爺さんが泣いているのです。そばへ寄るとおじいさんは飛び上がって逃げ出そうとしましたが、人の声をききわけ、親切な言葉をかけられたので、自分の心配のたねを熊の皮を着た男にうちあけるまでになりました。

     話を聞くと、おじいさんは財産を無くし、娘たちに食事も与えられない。宿賃も払えないので牢屋行きだと言うのです。熊の皮を着た男は、
     「お金はいくらでも持っているよ」と言って、宿の亭主を呼びよせ勘定を済ませたうえに、おじいさんのポケットへ金貨のいっぱい入っている財布を押し込んでやりました。

     おじいさんは恩返しに自分の3人の娘の中から一人選んで嫁にとってくれと自分の家へ連れてきました。
     長女はこの男をみると、驚いて逃げ出しました。次女は「以前やって来た熊の方がよっぽどましだ」と言いました。ところが末娘は「お父さんをすくってくれたのだから約束は守らないといけないわ」と言いました。

     熊の皮を着た男は、自分の指から指輪を抜いて二つに折りました。自分の方には末娘の名前を書き込んでしまい、のこり半分に自分の名前をしるして末娘に渡し、大切にしまっておいてくれと頼みました。それから男は別れを告げ、「私は、あと3年旅を続けなければならない。その時戻ってこなければ、私に義理立ては無用です。ですが、無事に戻ってこられるように神様に祈ってくれないか」と言いました。

     熊の皮を着た男は世界中を歩き回り、満7年経つといつぞやの荒野に帰ってきて木の下に座りました。間もなく風の音がざわざわすると悪魔が現れ、熊の皮を着た男の汚れを洗い落とし、髪の毛を櫛ですき、爪を切ってやりました。すると見た目が軍人らしくなり、以前より美しくなりました。

     元の兵隊さんへもどると、馬車に乗ってお嫁さんの家へ行きました。家についても誰も顔が分かりません。そこでお爺さんに末娘を嫁にくれないかと聞きました。おじいさんに呼ばれ、末娘が現れると、兵隊さんは、半欠けの指輪を取り出して末娘に渡しました。末娘が首にかけているもう半分の指輪を合わせると、ぴったりと合いました。「私はあなたと約束したお婿さんです。以前あった時は熊の皮を着ていたけれど、今は人間の姿を取り戻しました。」

     兵隊さんと末娘は結婚し、お金に不自由なく、幸せに暮らすことが出来たということです。

    教訓
    組織の中でどんなに活躍していても、いずれお払い箱になる時は誰にでも来ます。お払い箱になった時は惨めさ、悔しさ、ふがいなさ、世間の冷たさ、など感じることでしょう。その時どのように考え行動するかで、未来は変わると信じましょう。

    熊の皮を着た男(グリム童話)
    熊の皮を着た男(グリム童話)
  • トルストイ民話の教訓「人間はなんで生きるか」

    人間に与えられたものは何か、人間に与えられていないものは何か、人間はなんで生きるか、トルストイは答えています。

    あらすじ

     神様から罰を受けた天使が地上に下ろされ、「次の三つの言葉がわかったら天へ戻るが良い」と言われた。 人間に与えられたものは何か、 人間に与えられていないものは何か、人間はなんで生きるか。
     地上に降りた天使が教会の隅で裸で座っていると、ある靴屋に助けられ自宅へ連れて行かれる。そこで、これらの言葉の意味を知ることになる。

    ストーリー

     ある靴屋が女房や子どもたちと一緒に百姓屋の一間を借りて住んでいた。この靴屋は靴を作ったり直したりして暮らしを立てていたが、少ない稼ぎのほとんどは食費に費やされるしまつであった。ある時、靴屋の手元に僅かばかりのお金がたまったので、村の百姓から掛取りしたお金と合わせて外套につける羊皮を買おうと村へ向かった。

     ところが、どこの百姓も金に困っていて掛取りがうまくいかず理由をつけて金は払わなかった。そこで靴屋は考えて、手持ちの金と足りない分は掛けにして羊皮を買おうとしたが、掛けでは皮屋が承知しなかった。靴屋は気晴らしにウオッカを飲んでしまうと羊皮は買わずに家路についた。

     帰り道、礼拝堂の後ろに何かが見えたので近寄って見ると、裸の男が座っていた。靴屋は薄気味悪くなり通り過ぎてい行ったが、その男がじっとこちらを見ているような気配を感じた。靴屋は「人が災難にあっているのに、見て見ぬふりをするのか。良くないことだ」と自分自身に言うと踵を返し、その男の方へ向かっていった。

     壁にもたれたまま目をあげることもできないほど弱っていた男に靴屋は自分の服と靴を履かせた。きっと何かわけがあるに違いないと思い、自分の家へ連れて帰ることにした。帰り道、靴屋は「外套を買いに出かけたのに、それを買えずに裸の男を連れて帰るとなると、女房はさぞ文句を言うだろうな」と考え気がふさいできた。

     靴屋の女房が家で帰りを待っていると、入り口の階段のきしむ音とともに靴屋と見知らぬ百姓らしき男が入ってきた。靴屋の息が酒臭いのを感じ、《外套を買うお金をこのごろつきと一緒に飲んだ挙句、のこのこ引っ張って来たに違いない》と考え、胸が張り裂けそうになるのだった。女房は二人がどうするかじっと見ているままだったので、靴屋は言った「早く晩飯の支度をしてくれ」。

     女房は腹を立て「酔っ払いに食べさせる物などないよ」と言っていたが、靴屋から事の顛末を聞きながら、ごろつきの方を見た途端に怒りは消えてしまった。そのあと食事を与えて話をしたが、身の上は明かさなかった。翌朝、靴屋が名前を尋ねたところ「ミハイル」と名乗った。靴屋はミハイルに靴の作り方を教えた。覚えが早く三日目にはずっと靴屋をしていたように働きはじめた。 
     一年もたつとミハイルの靴は評判になりそこら中から注文が来るようになった。

     ある日、見るからに立派な旦那が靴屋の家へ入ってきた。旦那は革を見せながら言った「この革で私の足に合う靴が作れるか?一年くらい履いても形の崩れない、縫い目の切れない長靴が必要なんだ!出来るなら引き受けて革を裁て。できないなら断って、革に手を付けるな。一年たっても切れもせず、形も崩れなければ、お前に工賃を払ってやる。」靴屋がこまってミハイルを見ると、ミハイルはうなずいて見せた。靴屋は注文を受けることにして、足の寸法をとった。

     ミハイルは靴屋に言われるまま、革を裁ち始めた。靴屋と女房はミハイルの革の裁ち方が注文通りの靴を作るための裁ち方では無いので変だと思いながらも、口出しをしなかった。しばらくすると一足のスリッパが縫いあがった。靴屋は声をあげた。「ああ、どうしたことだ。今まで一度も間違いをしたことは無かったのに。なんと言い訳したらよいだろう。」

     突然、誰かがドアを叩いた。窓の外を覗いてみると、さっき靴を注文した旦那の下男だった。下男は言った「旦那が急死したので靴の代わりに死人に履かせるスリッパが欲しいと奥さんから言われ、使いに来たんだ」。ミハイルは出来上がっていたスリッパを包んで下男に渡した。

     またある日、女が子供二人を連れてやって来て言った。「春になってから、この子たちが履く靴を作ってほしい。」二人の子供はよく似ている女の子だったが、一人の方は左足が不自由であった。
     女の話によると、この子たちは実のこどもでは無いと言う。隣どうしで住んでいた身寄りのない百姓の家で、父親は伐った木に押しつぶされて亡くなった、その週に生まれた双子なのだと。母親は貧乏で死んでしまったが、死ぬときに一人の子の上に転がり、片足を圧し曲げてしまったのだと。女には生後8週間になる男の子がいたので、二人の女の子を引き取り一緒に育てた。実の子供は二つで亡くなり、その後は子供を授かることは無かった。

     しばらく話したあと、女は帰っていった。靴屋がミハイルを見ると、ミハイルは上の方を見ながらひとりでニコニコ笑っていた。靴屋は側へ行き「ミハイル、どうしたのだね?」と声をかけると、ミハイルは立ち上がり靴屋と女房にお辞儀をして言った。「私が受けてきた罰を神様はおゆるしくださいました。私は神様の三つのお言葉がみんなわかりました。」

     一つ目は靴屋のおくさんから、二つ目はお金持ちのお客が靴を注文した時、三つ目はあの二人の女の子を見た時にわかったのです。靴屋は尋ねた「ミハイル、お前は何の科(トガ)で神様の罰を受けたのだい、神様のお言葉とはどんなものか私の教えておくれ。」
     ミハイルは言った「私は天にいる天使でした。神様に一人の女の魂を抜いてくるように言われ下界へ下りて来ると、一人の女が病気で寝ていました。ちょうど女の双子を生んだところだったのです。女は私を見ると、神様が魂を召すために使わせたと思い、こう言ったのです。『天使さま、私の夫は木に打たれて亡くなったばかり、私は身寄りがなく、この子たちを育ててくれる人がいません。ですから私の魂を持って行かないでください。』そこで私は神様の所へ帰り、こう申し上げました。『父親も母親もいなくては子供は育ちようがありません。その母親から魂をとってくることはできません。』

     神様がおっしゃるには『行け、そしてその母親から魂を取れ。そうすれば三つの言葉がわかるだろう。人間の中にあるものは何か、人間に与えられていないものは何か、人間はなんで生きるか。それがわかったら天へ戻るが良い。』
     私は地上に降り、その母親から魂を引き抜いてしまったのです。母親の死骸は転がって一人の赤ん坊を圧しつけ、その片足を曲げてしまったのです。私は取った魂を神様のところへ持っていこうとしたところ、急に風が起って翼が吹き飛び地面に落ちてしまい、魂だけが神様のところへ昇っていったのです。」

     近くに礼拝堂があったので入ろうとしたのですが、鍵がかかっていて入ることができません。仕方なく礼拝堂の脇に隠れいていたところ、一人の男が「この冬の寒さをどのように凌いだらよいか、妻子をどのように養ったらよいか」とぶつぶつ言いながら歩いているのです。
     私は飢えと寒さで死にそうだが、自分や女房の着る毛皮のことや、家族に食べさせるパンの事ばかり考えている人がいる。この人は自分のことを助けることが出来ないのだ。私のことをみると眉をひそめ、恐ろしい顔になり、通りすぎていったのです。
     ところが戻ってきたではありませんか。通り過ぎる時には死相が現れていたのに、戻ってきたときは生き生きして、その顔に神さまの姿を見たのです。その人は私に自分の服を着せ、家へ連れて行ってくれました。

     家では一人の女が迎えにでて、なにやら言い始めました。その口からは死の息が漏れ、呼吸もできないくらいでした。ところが、私を連れてきてくれた男が神様の事を思い出させました。すると女はがらりと人が変わって、ご飯を食べさせてくれました。女の顔から死相が消え、生き生きとしていたのです。私はその女の中にも神様を見たのです。

     「その時、神様の第一のお言葉『人間に与えられたものはなんであるかを知るだろう』とおっしゃった言葉を思い出しました。そして人間に与えられたものは愛であることを悟りました。

     私があなた方と暮らすようになって一年たったある日、一人の人が来て一年の間は形も崩れず、縫い目もほころばない靴を作ってくれと注文しました。私はその人の後ろに死の天使が見えたのです。今日の日が沈まぬうちに、この人の魂が召されることを知ったのです。
     そこで考えました「この人は一年先のことまで準備しているが、今日の夕方まで生きていられないことを知らないのだ。」そして神様の第二のお言葉「人間に与えられていないものは何か」という言葉を思い出しました。

     今、私は人間に与えられていないものはなんであるかを知りました。「人間には自分にとって何が必要かということを知る力が与えられていないのです。 」

     天使は神をたたえる歌を歌い始めた。その声で小屋は震え、天井は裂けて、一本の火柱が地面から天まで炎々と立ちのぼった。みるみると天使の肩に翼が生え、天に昇ってしまった。

     やがて靴屋が気づいたときには、小屋は元どおりになっていて、彼の家族以外には誰のすがたも見えなかった。

    教訓
    人間に与えられたものは愛であること 。人間は 今の自分にとって何が必要かを知ることが出来ないこと。人間は人を必要とし、人から必要とされることで、生きることが出来る、とトルストイは答えています。

  • イソップ寓話の教訓No.364「母猿とゼウス」

    誰もが誰かの子供

    ストーリー

     ゼウスがすべての動物の子供の可愛さを比べる競争で、優勝した者には商品を出すことにした。

     神々は一人一人審査をしながら眺めていた。

     可愛い子を持つ母として猿もやって来たが、胸に抱くのは赤裸で鼻ぺちゃの子猿だった。

     その子猿を見て神々の間に、どっと笑いが起ったが、母猿が言った。

     「誰が優勝するかゼウス様はご存じでしょう。しかし私には何といってもこの子が一番可愛いのです。」

    みんな我が子が一番可愛い。そして誰もが誰かの子供です。

    母猿とゼウスの画像
    イソップ寓話の教訓No.364「母猿とゼウス」
  • イソップ寓話の教訓No.363「子供と絵のライオン」

    運命は変えられない!

    ストーリー

     勇敢で狩りの好きな一人息子を持つ老人がいた。

     ある時、息子がライオンに殺される夢を見たので、正夢となって現実になることを恐れ、美しく頑丈な建物を作り、そこで息子を守ろうと考えた。

     建物の中には立派な調度品や心を楽しませるための様々な動物の絵も飾った。その中にはライオンの絵もあった。

     しかし息子は、建物の中にいるばかりで、気分もふさぎ込みがちだった。

     ある時、ライオンの絵の前に立つと「お前と親父の夢のせいで、退屈な建物に閉じ込められたままだ。どうしてくれる」と言うなり、絵のライオンを殴りつけた。

     すると釘が手にささり、激しい痛みと炎症を起こした。続いて高熱が発症し、亡くなってしまった。

     父親が息子をライオンから守ろうと立てた建物の中で、絵に描かれたものとはいえライオンに殺されてしまった。

    教訓
    運命は変えられない。ダメな時はどんなに策を弄してもダメである。

    子供と絵のライオンの画像
    イソップ寓話の教訓「子供と絵のライオン」