試す者は、試される!
ストーリー
ヘルメスはテイレイシアスの予言が本物かどうか試してみたくなって、彼の牛を畑から盗んでおいて、人間に姿を変えて町へでかけ彼の家に行った。
一対の牛がいなくなったとの知らせが入ったので、テイレシアスはヘルメスを伴って郊外へ出かけた。盗難について鳥占いをするため「何か鳥を目にしたら教えてくれ!」とヘルメスに頼んだ。
ヘルメスは初めに鷲が左から右へ飛び過ぎるのを見たので、それを言った。
ところがテイレシアスは「それは牛とは無関係だ!」と言う。
次にヘルメスは烏が木にとまり、空を見上げたり地面をのぞき込んだりするのを見たので、それを説明したところ、テイレシアスが言った、
「その烏は天と地にかけて証言しているぞ。お前さえその気になれば、私の牛が戻ってくる、とな!」
※ヘルメス 富と幸運をもたらす守護神と考えられた。
※テイレシアス 名高い盲目の予言者。
人を試すとき、実は自分自身も試されている。
悪事を働いた者が、被害者の前で無関係を装っても、その欺きは見透かされる。
相手は、言葉ではなく沈黙の中で、いつ白状するのかを見極めている。
試すつもりで近づいた者が、逆に誠実さや責任感を問われる立場になる――それが信頼の構造だ。
一度でも欺きが露見すれば、信頼関係は当然に崩れる。
この寓話は、知恵や予言の力とは、相手の行動だけでなく、その心の動きを見抜くことにあると教えてくれる。
そして、誠実さとは、見られていないときにこそ試されているのだ。
コメントを残す