イソップ寓話の教訓No.403　「猟師と犬」

見せかけの善意！

ストーリー

　猟師が目の前を通り過ぎる犬を見て、次々と食べ物を与えた。それに答えて犬は言った。
「そんなに良くされると、かえって怖い！」

　度を越したもてなしの裏には、しばしば別の思惑が潜んでいる。表面的には親切に見える行為も、過剰であるがゆえに、相手の心を開かせ、安心させ、そしてその隙を突いて何らかの利益を得ようとする意図が隠されていることがある。こうした親切は、単なる善意ではなく、戦略的な「癒し」と「誘導」を兼ね備えた操作の一形態である。
　過剰な親切を受けたとき、人は「ありがたい」と感じると同時に、「なぜここまでしてくれるのか？」という疑念を抱くことがある。その違和感は決して無視すべきではない。なぜなら、度を越したもてなしをする者の中には、相手の心理的防御を解き、信頼を得たうえで、自分に都合の良いように誘導しようとする者もいるからだ。これは、支配や操作の前段階としての「好意の演出」であり、相手の判断力を鈍らせるための手段でもある。
　こうした状況において重要なのは、感謝と警戒を両立させることである。親切を受けたことに対して礼を尽くすことは人としての基本だが、その背後にある意図を見抜く冷静さもまた、自己防衛のためには不可欠だ。無防備な感謝は、時に自己の立場を危うくする。だからこそ、親切を受けたときには、その行為の量と質、そしてタイミングを慎重に見極める必要がある。
　本当の善意とは、相手に選択の自由を残し、見返りを求めないものである。対して、過剰な親切は、相手の自由を奪い、恩義という名の鎖で縛ろうとすることがある。そのような親切は、見かけ上は温かくとも、内実は冷たい支配の手段である可能性があるのだ。
　したがって、私たちは「ありがたい」と思う瞬間にこそ、「これは本当に無償の善意なのか？」と自問する習慣を持つべきである。
　感謝と警戒は対立するものではなく、むしろ倫理的な判断力を支える両輪である。真の自由と尊厳を守るためには、親切の背後にある構造を見抜く目を養うことが不可欠なのだ。