イソップ寓話の教訓No.65  「旅人と熊」

災いが真の友かどうかを試す

ストーリー

 二人の友達が一緒に旅をしていた。
 熊が現れたので、一人はさっさと木によじ登って隠れたが、もう一人は捕まりそうになって、地面に倒れて死んだふりをした。
 熊は死んだふりをしている男に鼻を近づけてクンクン嗅ぎまわっていたが、死んでいるものは食べないと聞いていたので、息を殺してじっと我慢していた。
 しばらくすると、熊は何もせずに去っていった。
 木から下りてきた男は「熊は君の耳元で何かささやいているようだったが、なにをささやいていたのだい?」と尋ねるので、男が言った。
 「君を置いて逃げ出す友人とは、一緒に旅をするな!と言ってたよ。」

 「旅」は人生の比喩であり、誰と歩むかによってその質は大きく左右される。利己的な人と共にすれば、試練の時に孤独を味わうことになる。災いは、真の友かどうかを見極める試金石となる。
 真の友に値する人は多くはなく、その価値を見分けるのは容易ではない。だが、そうした友がいれば、喜びは倍増し、悲しみは和らぐ。単なる協力関係ではなく、倫理的な責任を共有できる相手こそが、真の友と呼ぶにふさわしい。
 この教訓は、個人の関係性にとどまらず、組織や社会における信頼の在り方にも通じる。表面的な連携ではなく、困難を共に乗り越える覚悟と責任が、真の信頼を築くのだ。
 「熊」は困難の比喩であり、去った後に残るのは、静けさではなく、信頼の重みだろう。

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