No.009「井戸の中の狐と山羊」

 狐が井戸にはまり、上ることが出来ないので止むをえずじっとしていた。そこへ喉が渇いた山羊がやって来て、狐を見つけると「そこの水はおいしいか?」と尋ねた。
 狐は、このチャンスを逃すまいと考え、「冷たくておいしい水だよ。降りてきて一緒に飲もうよ!」と山羊に勧めた。
 山羊は、その時は水を飲みたい一心で、井戸の底に跳び下りて来た。しかし、喉の渇きが収まると、狐と一緒に上り方を考え始めた。すると狐が妙案を思いついて言った。
 「もし君がその前足と角を壁にもたれかけさせてくれたら、僕が君の背中を駆け上がって、君を引っ張り上げてあげるよ」
 山羊は喜んで従ったところ、狐は山羊の足から背中へ跳び上がり、背中から角へとよじ上って、井戸の天辺まで上ってくると、そのまま「さようなら」と立ち去ろうとした。
 「約束が違う!」と山羊が文句を言うと、狐は振り返ってこう言った。
 「山羊君、君に顎髭(アゴヒゲ)ほどでも思慮があったなら、上り方を思いつくまでは、降りてこないだろう」

 狐の言葉を鵜呑みにした山羊は「喉の渇き」という目先の欲求に囚われ、状況を確認せずに井戸へ飛び込み、結果として自分を危険に追い込んでしまっています。
 これは、他者の言葉は相手の立場や意図を踏まえて判断する必要があるのですが、欲望が思考を鈍らせてしまい「リスクと撤退方法」を考えないまま行動した結果を象徴しています。
 山羊は素直で善良でしたが、それだけでは危険を避けられません。善良さには、思慮と慎重さが伴って初めて力になるのです。

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