安易な模倣は災難のもと!
ストーリー
むかし広島に一人の能役者がありました。
ある日、村の祭りに行って、夜遅く一人で比治山のふもとの道を帰ってきました。あまり北風が寒いので懐に入れていた能の面を取り出して、風よけにそれを被って歩いていました。
すると比治山から一人の男が下りてきて、呼び止めました。「あなたは実に珍しいものを被っておいでになる。それは何というものですか?」と尋ねます。
能役者は「これは能の面と言うもので、被って舞を舞うものだ」と答えますと、男は「それを被れば、いつでもそのようになれるのですか?実は私はこの比治山に住んでいる狐ですが、一つあなたのように化けてみたい。是非その面と言うものを私に譲ってください」と言いました。
あんまり熱心に頼みますので、とうとう役者も承知をして、その面を狐に譲って家に帰ってきました。
それからしばらくして、殿様が狩りに出て大勢の家来を連れて比治山のふもとの道をお通りになったところ、おかしな狐が一匹出てきて、少しも人を恐れずに、その辺をうろうろしておりました。
「狐が出た!」と言って、多くの武士が集まってすぐに打ち殺しましたが、良く見ると以前に能役者の持っていた面を被っていたそうです。面を被ると体までが人になると思っていたらしい、と言うことでございます。
安易な模倣は、時に命取りとなる。
この話に登場する狐は、本来人間に化ける力を持っていた。にもかかわらず、能面という“人間の形式”に頼ったことで、かえって命を落とすことになった。
形式に憧れ、意味を理解せずに模倣することは、自らの本質を見失う危険を孕んでいる。代償は、想像以上に大きい。
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