虚勢の代償
ストーリー
ある人が船出に際し、猿を一緒に乗せた。
スニオン岬のあたりに来た時、激しい嵐に見舞われた。船が覆り全員が海に飛び込んだところ、この猿も泳ぎだした。
イルカがこれを人間だと思い、真下にくると背中に乗せて運んでやった。
そしてアテネの外港ペイライエウスに近づいたところで「アテナイの方ですか?」と猿に尋ねた。
「その通り、そこの名士の子だ!」と猿の回答に、イルカは「ペイライエウスをご存じですか?」と聞いた。
すると猿は、てっきり人間のことだと思い「毎日のように会う友人だ!」と答えた。
イルカはこの嘘に腹を立て、猿を水に突き落とし溺れさせた。
※スニオン岬:ギリシャのアッティカ半島の最南端にある岬
※ペイライエウス:ギリシャのアッティカ地方にある港湾都市
知ったかぶりで振る舞えば、いずれその浅さは露呈する。虚勢は状況を好転させるどころか、かえって信頼を損ない、事態を悪化させることが多い。
この寓話が教えてくれるのは、単なる戒めではなく、信頼とは構造的なものであり、誠実さによってしか支えられないということだ。
虚偽の応答はその構造を揺るがし、やがて排除というかたちで応答される。だからこそ、虚勢に頼るよりも、誠実さと沈黙を選ぶ勇気が必要なのだ。
そして、そうした構造を壊す振る舞いに巻き込まれないためにも、距離を取るという選択は、自己防衛であり、倫理的な判断でもある。
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